前回の東京五輪から早3年の月日が経ち、いよいよパリ五輪開幕まであと3か月と迫ってきました。世界中のアスリートやファンが待ちわびる中、競技会場や選手村の準備は順調に進み、パリ五輪の舞台は着々と整えられています。今大会は新たにブレイクダンスが採用されて人々の注目が集まっていますが、筆者個人としてはサッカー日本代表に注目しています。04/26現在、最終予選の最中でパリ五輪の切符まであと1勝という段階ではありますが、出場を決めて前回大会惜しくも4位に終わりメダルを逃した雪辱を果たしてほしいところです。それはさておき、選手・競技といった部分に注目が集まりがちですが、運営の取り組みにも注目すべきです。パリ五輪を主催する組織は、気候変動対策にも力を入れたクライメート・ポジティブな大会とすることを掲げています。世界中から人々が集まるイベントとなると、その移動だけでも環境に大きな負荷がかかるので、近年の五輪では対策を講じざるを得ないということです。実は、前回大会の東京でも気候変動に対する取り組みは行われていました。本記事ではその取り組みを振り返るとともに、パリの取り組みや目標を一部ご紹介します。クライメート・ポジティブとは?クライメート・ポジティブとは、気候変動に関連する用語であり、温室効果ガスの排出量より、削減量を多くすることです。クライメート・ポジティブと似た用語に、カーボンニュートラルがありますが、こちらは二酸化炭素の排出量と吸収量をプラスマイナスゼロにすることを指します。クライメート・ポジティブは、温室効果ガスをプラスマイナスゼロにとどまらず、排出量より吸収量が上回る状態を目指す概念です。東京五輪の取り組み東京五輪では、脱炭素をテーマにカーボンフットプリントや再エネ・省エネの積極的活用といった取り組みに加え、特にカーボンオフセットに力を入れた大会でした。驚くべきは、東京五輪ではCO2排出量の全てがオフセットされたことです。それを可能としたのが、キャップ&トレード制度です。キャップ&トレード制度キャップ&トレード制度は、政府が特定の業界や企業に対して排出量の上限(キャップ)を設定し、それを下回るよう努力するよう求めます。企業がこの上限を超える量の排出を行う場合、追加の排出権を購入する必要があります。逆に、上限を下回る排出量を実現した企業は余剰の排出権を売ることができます(トレード)。東京五輪の成果東京五輪では、キャップ&トレードで都内のオフィスビルなどから生み出されたクレジットを利用しました。2010年から東京五輪開催前の2021年6月時点で約2190万tの排出量を削減しており、大会を通して排出された196万tを大きく上回る成果を生み出しました。パリ五輪の取り組み東京五輪は開催地東京による自主的な取り組みでしたが、パリ五輪はIOC理事会が気候変動問題への戦略を承認しています。これにより、パリ五輪は世界で初めて気候変動問題に積極的に貢献するオリンピックおよびパラリンピック大会となります。パリ五輪では、会場施設の95%が既存または仮設のものによって行われる予定です。その他排出量を抑える取り組みにより、パリ五輪の二酸化炭素排出量は約150万tになると予想されており、これは過去の夏季オリンピックの二酸化炭素排出量の半分に相当します。これからのオリンピックIOC(国際オリンピック委員会)は、パリ協定に沿って2030年までに直接および間接の温室効果ガス排出量を45%削減するという目標を設定しています。さらに、2030年以降、各オリンピック競技大会組織委員会は、直接的および間接的な排出量を最小限に抑え、オリンピックとその後も継続的に脱炭素に取り組む必要があります。まとめ地球温暖化の影響によりオリンピックの開催が危ぶまれるといった事態になることは、経済的に大きな損失を招きます。加えて、オリンピックの役割は経済面のみならず、スポーツの振興と健康促進、世界中の人々に勇気と励ましを与える、といった意義もあります。東京五輪では気候変動への取り組みがカーボンマイナスとなり、一定の成果が証明されました。パリ五輪も同様に野心的な取り組みを展開し、達成されれば大きな成果となるでしょう。その後のロサンゼルス大会以降も継続して気候変動対策が取られ、その成果が無形のオリンピックレガシーとして受け継がれることを期待します。