はじめにこんにちは!サステナ編集部です!本日は世界各国の電力需要とデータセンター増加傾向について解説したいと思います!世界各国で電力需要が増加する中、クラウドコンピューティングや生成AI(Generative AI)の普及によってデータセンターの数も急増しています。本記事では最新の2025年時点のデータを中心に、電力消費とデータセンター動向を定量的な情報を交えて解説します。また、それに伴う環境課題や将来の展望についても考察しますので、是非ご覧ください!1. 世界各国の電力需要の現状とトレンド世界全体の電力消費量は拡大傾向です。2022年の世界全体の年間電力消費量は約24,398テラワット時(TWh)と、1981年の約3倍に達しました。2023年も世界の電力需要は前年比+2.2%と増加を続けており、2024年は経済回復に伴い+3.3%(約+968TWh)の成長が見込まれています。電力需要の増加要因には、中国やインドなど新興国の経済成長、電気自動車や空調の普及といった要素が挙げられます。主要国の電力消費動向を見ると、地域差が顕著です。中国の電力消費量は急拡大しており、2022年には年間約7,214TWhに達して世界全体の約30%を占めました。2000年以降の中国の電力消費量増加率は500%以上と著しく、現在も堅調に伸びています。一方、アメリカの年間電力消費量は約4,000TWh規模で横ばいに近く、2010年代はほぼ停滞していました。欧州連合(EU)は近年省エネの進展や産業構造の変化もあり需要が伸び悩み、特にエネルギー価格高騰の影響で2023年は前年比▲3.2%と20年ぶりの低水準に落ち込みました。日本もピーク時よりやや減少しており、年約1,000TWh前後で推移しています。新興国ではインドが2023年に+7%の需要増となるなど、引き続き高成長が予測されています。生成AIやクラウドの普及が電力需要に与える影響にも注目が必要です。大規模なAIモデルの開発・運用には膨大な電力が必要で、AI関連のデータセンター需要が各国で増えつつあります。ただし現時点では、AIやデジタル分野による電力需要増加は全体の一部に過ぎません。他の要因、例えば経済成長や電化(電気自動車の充電や家庭用エアコンの普及など)の方が依然として需要拡大への寄与は大きいと指摘されています。IEA(国際エネルギー機関)の分析によれば、今後数年間でデータセンターやAIによる電力消費も増加するものの、世界全体の電力需要拡大を主導するのは引き続き産業や輸送部門の電化や経済成長であり、AIブームだけが主因ではないとされています。今後の電力需要予測ではさらなる増加が見込まれます。IEAのレポートによれば、2024年から2026年にかけて世界の電力需要は年平均+3.4%のペースで拡大すると予測されています。2030年まで見ると、現在の政策下のシナリオでも世界の年間電力消費は今より約6,750TWh増加し、これは現在の米国とEUの合計需要を上回る膨大な伸びに相当します。その中でデータセンターやAI関連の電力消費も無視できない規模に成長する見通しです。実際、2022年に約460TWhだったデータセンター・AI・暗号資産分野の消費電力量は、2026年には1,000TWh超とほぼ倍増し、日本全体の消費量に匹敵する規模に達する可能性があります。各国で電力需給逼迫を招かないためにも、この需要増加を見越した電力インフラ整備と効率化が課題となるでしょう。2. 世界各国のデータセンター増加傾向データセンターの数と規模は世界的に急増しています。特にハイパースケールと呼ばれる大規模データセンター(主に主要クラウド事業者が運営するもの)の増加が著しく、2018年に世界で約430拠点だったものが、2023年末時点で992拠点に達し2024年初にはついに1,000拠点を超えました。わずか5年で倍増した計算で、この成長ペースは今後も続く見通しです。Synergy Researchの分析では、毎年120~130か所のハイパースケール施設が新規稼働しており、平均規模も拡大しているため、総IT容量は約4年で倍増するペースにあります。地理的な傾向としては、アメリカが依然として最大のデータセンター大国であり、世界全体の容量の約51%が米国に集中しています。中国および欧州も大規模データセンターの設置が進んでおり、それぞれ残りのかなりのシェアを占めています(米国51%以外の残余のうち、中国と欧州でそれぞれ約3分の1ずつ)。上位20の都市・地域に世界のハイパースケール容量の62%が偏在しているとの調査もあり、北バージニア(米国)、北京(中国)、ダブリン(アイルランド)などがトップクラスの集積地です。実際トップ20中13地域が米国、4地域がアジア太平洋、3地域が欧州に位置しており、今後も米国と中国がデータセンター数で突出する一方、インドやマレーシア、スペインといった新興市場も台頭しつつあります。主要テック企業各社はデータセンター投資を加速しています。クラウドサービスを提供する巨大企業(例:Amazon、Microsoft、Google)は世界各地に数多くの自社データセンターを展開し、そのフットプリント(設置網)の広さで群を抜いています。これら上位3社だけで世界のハイパースケールデータセンター容量の約60%を占めるとも報じられています。各社とも本国である米国に巨大施設を構えるだけでなく、欧州やアジアなど多数の国に拠点を設けてサービス提供地域を拡大中です。また、Facebookを運営するMetaや、中国のアリババ・テンセント、さらにアップルやByteDance(TikTokの運営企業)なども、大規模データセンターの主要プレーヤーとして名を連ねています。これらテック企業の設備投資額は年々増加しており、例えばGoogle・Microsoft・Amazonの3社の2023年の設備投資合計は米国GDPの0.5%(数十兆円規模)に達し、同年の米国石油・ガス産業全体の投資額を上回ったと報告されています。各国政府もデジタルインフラ強化を重視しており、データセンター誘致や産業政策の一環での投資も活発です。特に通信インフラが整い政治的安定性の高い地域、冷涼な気候で冷却効率の良い地域などがデータセンター立地に選ばれる傾向があります。今後4年間でさらに現在の倍の容量が必要になるとの予測もあり、各社・各国ともデータセンター建設ラッシュが続く見込みです。その一方で、この急拡大に電力供給や環境対策が追いつくかが課題となっています(後述)。3. 環境問題に対する課題や環境への影響データセンターとAIの電力大量消費が環境への新たな負荷となっています。データセンター全体で見ると、現在世界のデータセンターは年間約1%の世界電力を消費していると推計されます。先進国では割合がさらに高く、米国・中国・EUなど大国では国内電力消費の2~4%程度をデータセンターが占めているとの報告があります。巨大なサーバ群を24時間稼働させるため、膨大な電力が必要だからです。特に近年の生成AIブームにより、高性能GPUを何万台も並べたAI専用データセンターが増え始めています。生成AIモデルの学習(トレーニング)や推論の計算コストは非常に大きく、ある研究によれば同じタスクを実行するのに通常のソフトウェアよりもAIは約33倍ものエネルギーを消費するケースがあるとされています。また大規模言語モデルのサービスは常時オンラインで稼働し続ける必要があり、「ChatGPTのような対話型AIは一度デプロイすると止めることができず、常に電力を食い続ける」と指摘する研究者もいます。こうした背景から、マイクロソフトではデータセンター拡張に伴い2020年以降のCO2排出量が30%増加したと報告され、Googleでも同期間に約50%排出量が増えるなど、AI需要が企業の環境負荷を押し上げています。今後ますます多くの企業や組織がAIを活用すれば、この分野の電力需要と排出量は爆発的に増加しかねない状況です。データセンターの冷却(クーリング)も大きな環境課題です。 サーバが発する熱を取り除くために空調・冷却設備が大量の電力と水を消費しています。典型的なデータセンターでは電力消費の30~40%が冷却用途に充てられており、施設全体のエネルギー効率を表すPUE値(Power Usage Effectiveness)は業界平均で1.56前後と近年伸び悩んでいます(※PUE=1が理想で、1.56はIT機器に1の電力を供給するために0.56が冷却などに使われることを意味する)。このため、冷却効率を高める新技術の導入が環境負荷軽減の鍵となっています。例えば水冷・液冷技術を全面的に導入すれば、空冷主体の従来方式に比べデータセンター全体のエネルギー消費を1割以上削減できるとの試算もあります。さらに電力以外にも水資源の大量使用が問題視されています。サーバを冷やす冷却塔などで蒸発散される水の量は莫大で、例えば1MW規模の中型データセンターで年間最大2,550万リットルもの水を冷却に使用する場合があり、これは一日に30万人規模の都市が消費する水量に匹敵します。気候乾燥地や水不足地域でのデータセンター稼働は水ストレスを悪化させる可能性があるのです。最近の推計では、大規模AIモデルの代表例であるGPT-3の学習・実行において、ユーザへの回答10〜50件あたり約500mlの水が間接的に消費されているとも報告されました。生成AIの普及によって見えづらい形で水資源への負荷も拡大しており、この点も環境上の大きな懸念材料です。再生可能エネルギーの活用拡大は明るい材料です。データセンター業界では電力由来のCO2排出を削減するため、再生可能エネルギーの導入が急速に進んでいます。GoogleやMicrosoft、Amazonなど主要IT企業はこぞって再エネ電力の調達目標を掲げ、大規模な太陽光発電や風力発電への投資を行ってきました。例えばGoogleは2017年以来、自社の年間電力消費相当量の再生エネルギー電力購入を毎年達成しており、2023年も7年連続で年間100%再エネ電力マッチを実現したと報告しています。またMeta(Facebook)は約5.2GW、Amazonは4.6GW、Googleも2.6GWもの再生可能エネルギー発電設備の電力をオフサイトで契約しており(太陽光を中心に、自社運営や電力購入契約〔PPA〕によるもの)、企業によるクリーンエネルギー調達量のランキングで世界上位を占めています。こうした取り組みにより、IT大手の電力消費増にもかかわらず排出量増加を抑制する効果が出ています。実際、再エネの電力契約分を差し引いて計算する「マーケットベース」の排出量では、主要IT企業全体の排出は2019年以降ほぼ横ばいに維持されています(一方で、契約を考慮しない「ロケーションベース」では2019年以降電力使用量に比例して約+19%/年のペースで排出が増えており、実質的な排出ゼロにはさらなる追加策が必要です)。今後もデータセンター新設に伴う電力需要増をすべてクリーン電力でまかなえなければ、発電側で化石燃料が使われる余地が残り、結果として温室効果ガス排出増に繋がります。一部推計では、現在の延長で2030年までデータセンター需要が拡大すると年間150~250TWh程度の追加発電が必要となり、仮にその60%をガス火力で賄えば年間+4,000万~6,700万トンのCO2排出増(米国電力部門排出の2~4%相当)につながるとされています。したがって、データセンター業界全体でカーボンフリー電力への移行をさらに進めることが重要です。幸い、欧米の大手データセンター事業者やクラウド企業は「2030年までに事業の完全脱炭素化」や「24時間365日カーボンフリー電力利用(24/7 CFE)の実現」など積極的な目標を掲げ始めており、クリーンエネルギーへの転換が加速しています。4. 今後の展望エネルギー効率化技術の進展が持続可能な成長の鍵となります。データセンターやAIインフラの電力効率を高める技術開発が各所で進んでいます。前述した液浸冷却や水冷システムの導入拡大に加え、サーバ室内の空調制御をAIで最適化する試み、余剰熱を外気に逃がす高度な換気システム等が実装され始めています。半導体メーカー各社も、省電力で高効率な次世代チップやアクセラレータ(AI専用のカスタムチップなど)の開発にしのぎを削っています。これら専用ハードウェアは従来の汎用CPUに比べて同じAI処理を格段に少ないエネルギーで実行でき、計算あたりの消費電力(性能/W)の大幅な改善が期待されます。また、ソフトウェア面でも効率化が図られており、データセンター全体で未使用サーバをスリープさせる電力管理や、処理を需要に応じて分散・集約するスマートなスケジューリングが導入されています。さらにはデータセンターのモジュール化・小型分散化も進んでおり、必要な場所に小規模センターを配置して遅延を減らしつつ、大規模集中による冷却非効率を避ける動きも出ています。総じて、省エネ技術と運用最適化の両面での進展が、今後の需要増を吸収する上で不可欠でしょう。政府や業界団体も電力消費削減と環境対応に向けた取り組みを強化しています。 欧州ではデータセンターの省エネ・グリーン化に関する自主協定や規制が相次いでいます。業界団体が欧州委員会と締結した「気候中立型データセンター・パクト」では、新設データセンターに厳しい効率基準を課す目標が掲げられました。例えば2025年以降に稼働する新設施設は、気候の涼しい地域ではPUE1.3以下(温暖地域では1.4以下)を達成し、2030年までにデータセンター運用を気候中立(実質カーボンゼロ)にすることなどが約束されています。その延長線上で、一部ではPUE1.2以下や再生可能エネルギー50%以上利用(将来的に100%)といった目標が掲げられ、規制として盛り込む国も現れています。シンガポールでは国内電力不足と土地制約から2019年以降データセンター新設を一時停止していましたが、2022年に再開する際「世界最高水準の効率」を条件に許可する方針を打ち出しました。シンガポールのデータセンターは国内電力の約7%を消費していたとの試算もあり、政府主導でエネルギー効率の向上と再エネ利用拡大を図っています。米国でも各州・地域でデータセンター誘致の際に再エネ電力の確保や送電網増強をセットに進めるケースが増えており、グリーンなデータセンター運用が投資の前提条件になりつつあります。また、データセンターから出る大量の排熱を有効利用する取り組みも促進されています。北欧の国々では、データセンターの廃熱を都市の地域暖房に転用し、住居やオフィスの暖房に再利用するプロジェクトが進行中です。例えばスウェーデンのストックホルムやフィンランドのヘルシンキでは、データセンターの余熱を回収して配管ネットワークで周辺の住宅数千戸へ供給し、化石燃料による暖房需要を削減しています。このように産業横断的なエネルギーの有効活用も、持続可能なデータセンター運用の一環として重要になっています。持続可能なデータセンター運用への課題は依然残りますが、それに対する対策も進みつつあります。 データセンター需要の伸びに対し、電力インフラの対応が間に合わない地域も出始めています。欧州の都市では電力網の容量不足からデータセンター建設を一時停止させた例(アイルランドのダブリン郊外など)もあり、電力供給能力の制約が新たな制限要因となっています。この課題に対しては、電力会社と連携した送電網の増強や、データセンター側での自家発電・蓄電設備の導入(例えば大規模蓄電池や将来的には小型モジュール炉=SMRの活用検討)などで補完する動きがあります。環境面では、引き続き水使用量の低減や機器のリサイクルなど包括的なサステナビリティ戦略が求められます。主要クラウド事業者は水使用効率(WUE)の公開や、乾燥地での新技術(マイクロソフトは雨水や下水の再利用・革新的冷却で「水を使わないデータセンター」を目指す試み)を進めています。サーバ機器の廃棄に伴う電子ゴミ問題にも対処が必要で、部品の再利用やリサイクル率向上も課題です。幸い、産官学の協力のもとでこうした課題解決に向けたロードマップが描かれ始めています。電力需要とデータセンターが増え続ける未来に向け、エネルギー効率化とクリーンエネルギー化、そして資源循環を徹底することで、デジタル社会の持続可能性を確保していくことが求められていると言えるでしょう。