こんにちは!サステナ編集部です!本日は、昨今MLBなどで話題になっている魚雷バットと、NPBでの扱いについて解説したいと思います!なんとルールが容認されてから1日ですが、もうNPBの試合で魚雷バットを使い始めている選手がいるとかいないとか・・・?今回ももちろん環境への影響にも触れていくので是非ご覧ください!魚雷バットとは?魚雷バットとは、最近MLB(米メジャーリーグ)で注目を集めている新形状の木製バットです。元MIT(マサチューセッツ工科大学)の物理学者で、ヤンキースのアナリストだったアーロン・リーンハート氏が開発に関わりました。従来のバット形状を見直し、「先端が細く途中が太いボウリングピン(魚雷)のような形状」にしたのが特徴です。魚雷バットではバレル(芯となる太い部分)が通常より手元側に寄っています。先端部分は細く軽量化され、打者の手元近くに重みと厚みが集中したデザインです。この形状によってスイングのバランスが改善され、「振り抜きやすさ」が向上すると言われています。実際、ヤンキースのアンソニー・ボルピ選手は打球がバットのラベル付近(芯より手前)に当たりやすい傾向をデータで指摘され、そこに木材を多く配した魚雷バットをメーカーに発注しました。その結果、「当てたい場所により大きなバレルを配置できる」というアイデアに納得し、ボルピ選手自身「このコンセプトはとても理にかなっている」と語っています。この魚雷バットはMLBの規則にも抵触せず公式戦で使用可能です。実際に2025年開幕直後、ヤンキースは3試合でMLBタイ記録の15本塁打を放つ歴史的猛攻を見せ、そのうち9本が魚雷バット使用者によるものでした。使用した主な選手は、ヤンキースの若手有望株ボルピ選手をはじめ、マーリンズのジャズ・チザムJr.選手、カブスのコディ・ベリンジャー選手、カージナルスのポール・ゴールドシュミット選手、ヤンキース傘下のオースティン・ウェルズ選手など錚々たる顔ぶれです。彼らの中には早速ホームラン数が増加した例も報告されており(チザムJr.選手は開幕3試合で3本塁打、ボルピ選手も2本塁打)、魚雷バットの効果に注目が集まっています。魚雷バットの現状とトレンド魚雷バットは現在、MLB全体で使用者が徐々に増えつつあります。ヤンキースで話題になった後、「あのバットは何だ?」と他球団でも興味を示す選手が相次ぎました。カブス在籍時には試合で使わなかったベリンジャー選手も、その独特な手応えに着目して2025年からルイビル・スラッガー社製の魚雷モデルに本格切り替えしています。またレイズのジュニオール・カミネロ選手が代打で試したり、オリオールズの選手たちも試用し始めるなど、リーグ全体でじわじわと浸透しつつあります。MLB機構も「規則の範囲内で問題ない」と公式に認めているため、今後さらに多くの打者が試すと見られています。性能面では「ヘッドが軽く感じるぶんスイングスピードが上がる」という声があります。実際に魚雷バットに持ち替えた選手からは「バット全体のバランスが良くなった気がする」とのコメントも出ています。一方で物理的には芯を外すと飛ばないリスクも指摘されています。先端が細い分、そこに当たると従来以上に打球が失速する可能性があるためです。しかしマーリンズのリーエンハート氏(魚雷バット開発者)は「バットはあくまで道具で、最後は選手自身の技術次第」と強調しており、メリットを活かすも殺すも使い手次第と言えそうです。メーカー側の動向も熱を帯びています。ヤンキースでの成功を受け、米国のバット工場では魚雷バットの生産が急ピッチで進められています。ビクタス社やルイビル・スラッガー社などMLB公式サプライヤー各社が競って独自の魚雷モデルを開発・改良中です。リーエンハート氏によれば、この新型バットは一朝一夕に出来たものではなく、試行錯誤と選手からのフィードバックを経て現在の形状に至ったとのこと。2023年頃から一部のマイナーや秋季キャンプでプロトタイプが試され、「一次利用者(Patient Zero)」となった選手達の協力で改良が重ねられました。その結果、現在のモデルは初期の試作品に比べ飛距離や操作性が大きく向上しているそうです。今ではヤンキースだけでなくマーリンズでも数名が使用を開始し、ツインズやレイズなど他球団にも波及し始めています。短期間でここまで広まった背景には、「道具の進化」に対する選手達とメーカーの高い関心と、SNS等で瞬時に情報共有される現代ならではの拡散力があるのでしょう。NPBの投高打低と魚雷バットの影響一方、日本プロ野球(NPB)は近年深刻な投高打低傾向にあります。2018年に平均4.32だった1試合あたり得点は、2023年には3.48まで低下しました。特に長打力の低下が顕著で、例えば平均的な140~144km/hの速球に対する打者の長打率は2019年に.460でしたが、2023年には.410と大幅減少しています。要するにここ数年のNPBは2011~12年の「飛ばない球」時代に匹敵する打者不利の環境であり、各チームとも得点力アップが課題となっていました。こうした状況で登場した魚雷バットは、NPBでも密かな注目を集めています。実はメキシコや韓国のプロリーグではすでに魚雷バット導入の動きがあり、形状が各リーグの規定に抵触しないことも確認済みでした。NPBでも「いずれ広まるのは時間の問題」と言われていましたが、遂に2025年4月11日付で公式戦での使用が解禁されました。解禁初日から阪神タイガースの主力打者である佐藤輝明選手、大山悠輔選手、ルーキーの森下翔太選手らが早速打撃練習で試打しています。森下選手は「芯の位置が手元寄りにあることで、多少詰まっても大丈夫という安心感が生まれる」と前向きな感想を述べました。ロッテでもベテラン角中勝也選手や岡大海選手が試用を始め、各球団で興味津々といった様子です。もっとも、文化や慣習の違いもありNPBで定着するかは未知数です。DeNAの村田コーチは「良ければ使っていい」と新兵器を歓迎する一方、ロッテの栗原打撃コーチはシーズン中に新たな相棒(バット)を試す難しさから「ちょっと違和感はあると思う」と慎重な見解も示しています。実際、MLBでもドジャースのマックス・マンシー選手が「今のバットで満足」と魚雷バットに否定的なコメントをしています。ツインズ監督のロッコ・バルデリ氏も「誰もが魔法のように打てるようになる訳ではない」と過度な期待を戒めています。このように最後は打者本人の力量が物を言う世界だけに、魚雷バットを使えば即座に打率や長打が劇的向上…という保証はありません。それでもNPBのファンや関係者にとって、新形状バットが低迷する打撃成績を押し上げる可能性は魅力的な話題です。まずは一部選手から実戦投入があるか、そしてそれが好結果につながるか、今後の展開に注目が集まっています。環境への影響は?新しいバットが登場すると気になるのが素材や製造方法、そして環境への影響です。魚雷バットは形状こそ独特ですが、素材自体は通常の木製バットと同じです。現在MLBで使われている魚雷型バットはメープルやアッシュなど木材から作られた一本物であり、従来のバット製造工程(木材を旋盤で削り出す)で生産されています。したがってバット1本あたりの製造時のエネルギー消費や廃棄方法も、通常の木製バットと大差ありません。では将来的にカーボン(炭素繊維)や複合素材を使った“魚雷バット”が開発されたらどうでしょうか。炭素繊維強化プラスチック(CFRP)製のバットは、重量配分を自在に調整しやすい利点があります。実際、アルミやカーボン製バットは内部の素材配分を工夫して理想的なバランスを実現できるため、高校野球など金属バットの世界では様々な設計が登場しています。しかし環境負荷の観点では注意が必要です。炭素繊維素材は製造段階でのCO2排出量が決して少なくなく、木材のように自然分解もしません。使用後の廃棄やリサイクルも難しく、焼却すれば炭素を含む分だけCO2が発生します。一方、木製バットは折れても木材チップに再利用したり土に還すことも可能で、環境面では優れています。例えば竹素材のバットは成長の早い竹を原料にしており「環境に優しい素材」として注目されています。竹バットは硬くて折れにくく耐久性が高いため長期間使用でき、結果的に廃棄物を減らすメリットもあります。プロの公式戦で使えるバットは規定上単一素材である必要があるため(金属や複合素材バットは使用不可)、現状ではメープルやアッシュ、竹など天然素材の有効活用がカギと言えるでしょう。実際、日本では折れた木製バットを集めて箸やアクセサリーにアップサイクルする試みや、バット製造で環境に配慮した植林活動を行うメーカーも現れています(※)。魚雷バットも含め、今後は性能だけでなく環境負荷も考慮したバット開発が求められていくかもしれません。今後の展望最後に、魚雷バットの今後について展望を述べたいと思います。まずNPBでの普及可能性ですが、キーとなるのは「実績」と「適応力」です。もし魚雷バットを使った選手が明らかに長打力を向上させれば、他の選手達も追随するでしょう。特に各球団の強打者がこぞって使用し始めれば、一気に普及が進む可能性があります。一方で従来型のバットに慣れ親しんだ選手ほど新形状に戸惑うかもしれません。打撃フォームやタイミングへの影響もゼロではなく、合う合わないは個人差が出るでしょう。実際MLBでも、全員が魚雷バットに飛びついている訳ではなく様子見の選手も多い状況です。ルール整備の面では、現在のところ特別な新ルールは設けられていません。前述のようにMLB・NPBともに規則の範囲内(直径2.61インチ以下、長さ42インチ以下など)のバットであるため、使用は各選手の判断に委ねられていますmlb.com。ただ、将来的にさらなる革新的バット(例えば極端に形状を変えたものや新素材を用いたもの)が登場した場合、リーグ側で安全性や公正性の観点から検討が行われる可能性はあります。例えば打球速度が飛躍的に上がりすぎればピッチャーや観客の安全対策が議論されるでしょうし、折れた際に破片の飛び散り方が危険なら対策が求められるでしょう。幸い魚雷バットについては今のところ深刻な問題は報告されていません。環境への配慮という点でも今後の動きに期待です。野球用品業界でもサステナビリティの意識が高まっており、例えば使用済みバットのリサイクルや素材調達のエコ化などの取り組みが進み始めています。魚雷バットがさらなる改良を重ねる中で、「環境に優しい魚雷バット」が登場する可能性もあるでしょう。それは、より持続可能な素材で作られたバットであったり、製造工程でカーボンオフセットを実現した製品かもしれません。いずれにせよ、魚雷バットは野球界におけるイノベーションの一つであり、NPBでの広がり次第では打低傾向への切り札になり得ます。今後、選手たちがこの新兵器とどう向き合い、自分のものにしていくのか。そして野球文化にどのように受け入れられていくのか。引き続き目が離せないトピックですね!※参考:折れたバットの再利用や植林活動については具体的な事例がいくつか報じられていますが、本記事では割愛しました。