こんにちは!サステナ編集部です!皆さんは、Jリーグ鹿島アントラーズのホームスタジアムが「メルカリスタジアム」という愛称になったことをご存じでしょうか?これは、フリマアプリ大手のメルカリが鹿島スタジアムのネーミングライツ(命名権)を取得し、2025年7月から3年間、年間1.5億円の契約でスタジアム名に自社名を冠したものです。略称は「メルスタ」と呼ばれ、スタジアムでフリーマーケットを開催して地域を盛り上げる取り組みも予定されています。リユースを促進するビジネスで知られるメルカリが、スポーツの場を活用して環境や地域とのつながりを深めようとしているこの事例は、まさにグリーントランスフォーメーション(GX)時代ならではの新潮流と言えるでしょう。GX推進企業がスタジアム命名権に注目する理由なぜ今、GXに積極的に取り組む企業がスタジアムの命名権取得に乗り出したのでしょうか。その背景には、環境への取り組みが企業ブランディング上ますます重要になっていることがあります。実際、GXやESGを意識した取り組みは消費者や投資家からの評価を高め、企業イメージ向上につながるとされています。巨大なスタジアムに自社名を掲げることは、それ自体が強力な広告になります。特にスポーツは世代や地域を超えて多くの人々に愛されるため、環境貢献を掲げる企業にとってスタジアム命名権は、幅広い層へのリーチと好感度アップを同時に狙える絶好の機会です。さらに、命名権取得によって企業は単に名前を冠するだけでなく、スタジアム自体の運営やイベントを通じて環境活動を展開することが可能になります。メルカリの例では、スタジアムでフリマを開催してリサイクル・リユースを促進する計画が発表されています。こうした取り組みは地域密着の社会貢献であると同時に、自社のサービスコンセプト(不要品の循環利用)をリアルの場で体現する試みです。GX推進企業にとって、スタジアムは単なる広告媒体ではなく、自社の環境ビジョンを具体化し体験してもらう「ショーケース」として機能し得るのです。スタジアムを通じて進むグリーントランスフォーメーションスポーツの世界も近年は環境意識が高まっており、スタジアムそのもののグリーン化が進んでいます。国際的に見ると、スポーツ産業全体の年間CO2排出量は推定3億5千万トンにも達するとされ、巨大イベントでは一度に最大40トンものゴミが発生する例も報告されています。こうした課題に対応するため、多くのスタジアムが再生可能エネルギーや省エネ技術の導入、資源循環の工夫を進めています。例えば、東京ドームでは照明を従来のHIDランプからLED投光器に更新し、消費電力を約54%削減する効果を上げました。大阪府のパナソニックスタジアム吹田(ガンバ大阪の本拠地)でも、屋根に2100枚・出力504kWの太陽光パネルを設置し、スタジアム全体でエコな電力利用を実現しています。同スタジアムでは発電量や消費量を場内モニターに表示し、観客にも環境への配慮を「見える化」して訴求しています。これらの技術導入により、エネルギー消費とCO2排出の大幅削減が期待できるだけでなく、来場者が環境問題を身近に感じる機会にもなっています。また、水資源の有効活用も注目されています。日本でも東京ドームや福岡ドームなどで屋根の雨水を貯留し、トイレ洗浄などに再利用する工夫がなされています。海外に目を向ければ、米シアトルの「気候変動誓約アリーナ(Climate Pledge Arena)」では雨の多い地域特性を活かし、屋根で集めた雨水でアイスホッケーリンクの製氷を行っています。これにより過去3シーズンで150万リットル以上の水を節約する効果が出ています。さらに同アリーナは世界初の「命名権が企業名ではなく環境保護の理念に捧げられた」施設として話題になり、館内を100%再生可能エネルギーで賄うオール電化設備、チケットに公共交通無料券を付与して自家用車利用を減らす施策、徹底したゴミの分別とコンポスト化で90%以上の廃棄物リサイクル率達成など、GXの最先端を行く取り組みを次々と打ち出しています。スタジアム周辺の環境への目配りも重要です。巨大なコンクリート構造物であるスタジアムは、何もしなければ夏場に周囲の気温を上昇させる「ヒートアイランド現象」の一因ともなりえます。そこで、スタジアムの設計にグリーンインフラを取り入れる動きも見られます。屋上や外壁に草木を植栽したり、周辺に豊かな緑地を設けたりすることで、周囲の気温上昇を和らげ、自然と調和した景観を作り出そうという試みです。研究によれば、都市部で樹木による木陰が40%以上を占めるエリアでは、周辺気温が4〜5℃も低下するというデータもあります。スタジアムという大規模空間に十分な緑を配置できれば、夏の酷暑対策や熱中症リスクの軽減にも寄与し、来場者にとって快適な環境づくりにもつながるでしょう。環境ブランディングの効果と今後の展望このように、GXを掲げる企業によるスタジアム命名権取得と、それに伴う環境配慮型のスタジアム運営は、企業イメージ向上と実利の双方で効果を発揮しています。一つは、企業が環境問題解決に貢献している姿勢を具体的な形で示すことで、ファンや地域住民からの信頼感や親近感を高められることです。ユニークな例として、イングランドの森林グリーン・ローバーズFCではスタジアムを世界初の木造スタジアムに建て替える計画が進行中で、クラブ自体が「世界で最も環境に優しいフットボールクラブ」として知られています。こうした話題性はメディア露出も増やし、結果的にスポンサー企業の知名度やブランド価値の向上に直結します。もう一つは、環境への投資が長期的に見ればコスト削減や新たなビジネスチャンスにつながる点です。省エネ設備の導入はエネルギー費用の削減につながり、再エネ設備の設置やカーボンオフセット施策は将来の炭素税や規制強化への備えにもなります。例えば、日本国内の再生可能エネルギー比率は2023年度に約26%まで上昇しましたが、政府が掲げる2030年目標(36〜38%)にはまだ開きがあります。スタジアムといった大型施設で率先して再エネ化やGX施策を進めることは、国内全体の持続可能性目標の達成にも貢献すると言えるでしょう。最後に忘れてはならないのは、一連の流れが単なる「グリーンウォッシング(見せかけの環境配慮)」に終わらないようにすることです。企業名を冠したスタジアムが環境キーワードを掲げながら、実態が伴わなければかえって批判を招きかねません。だからこそ、命名権を取得した企業には、その名にふさわしい具体的なGX施策や透明性のある成果公開が求められます。幸い、先述のメルカリスタジアムのように、企業と自治体・クラブが協力してスタジアムの価値向上や環境施策に取り組む事例も登場しています。今後ますますスポーツ観戦の場がよりサステナブルで魅力的なものへと進化していくことを期待したいですね。以上、サステナ編集部でした!出典:スポーツ報知「鹿島本拠地が「メルカリスタジアム」に名称変更 3年総額4・5億円でメルカリ社がネーミングライツ取得」沖縄タイムズ「鹿島本拠地、新愛称「メルスタ」 メルカリが命名権を取得」vox.com「How Seattle’s Climate Pledge Arena achieved zero-waste status」パナソニック「全天候型多目的スタジアム「東京ドーム」にパナソニックがLED投光器を納入~スタジアム照明のオールLED化を実現」パナソニック「パナソニックスタジアム吹田」fnPrime「持続可能な水管理:クライメート・プレッジ・アリーナのグリーン・イニシアチブ」Climate Pledge ArenaStadiumDB.com「England: A fully wooden stadium for an eco-friendly team」isep「国内の2023年度の自然エネルギー電力の割合と導入状況」