生物多様性とは生物多様性とは、生き物や生態系が土地ごとの気候や自然環境に応じて多様に分岐し、それぞれが直接的・間接的につながり合い、ネットワークを構築して生きているその性質のことです。生物多様性は一般的に、生態系の多様性・種の多様性・遺伝子の多様性の3つのレベルがあると認識されています。生態系の多様性:森林・河川・海洋・干潟・珊瑚礁など、地球上には様々な自然環境とそれに応じたバイオームが存在しています。種の多様性:動物・植物・菌類、それぞれの分類の中にもさらに細かな分類群があり、多様な種に分かれています。遺伝子の多様性:同じ種や個体群の中にも、多様な遺伝子を持つ個体が存在しています。生物多様性の危機生物多様性の損失は人間の経済活動に伴って加速的に進行してきたとされます。特に、人口増加とそれに伴う農地や漁場の拡大によって、生物多様性の損失は気候変動よりも1世紀早く始まっていた可能性もあるとも言われています。IPBES GLOBAL REPORT(2019)には、推定100万種の動植物種が現在絶滅の危機にあるという記述があります。さらに、生物多様性損失のリスクを下げる行動がなければ、今後ますます損失の速度は加速していくとも予想されています。こうした危機に対する国際的な流れとして、2022年にはCBD-COP15にて昆明・モントリオール生物多様性枠組が採択され、2050年までに生物多様性を評価・保全・回復・賢明に利用することが掲げられました。企業が生物多様性に取り組む理由上記のような生物多様性危機に対し、企業はなぜ取り組んでいかなければならないでしょうか?人類が一つとなって取り組まなければならない大きな問題であるのはもちろんですが、企業活動と生物多様性は切ってもきれない関係性にあるのです。NCP(Nature's Contribution to People)NCPとは直訳で「自然の寄与」のことです。簡単に言い換えれば、衣・食・住、あるいは文化的な価値やリラクゼーション効果に至るまで、人間にもたらされる自然の恩恵のことです。NCPには18項目が挙げられ、それらは調節的寄与、物的寄与、非物的寄与の3つの分類に分けられています。自然によってもたらされるものには、災害や気候変動の緩和力向上、医薬品開発や品種改良の促進なども含まれ、直接は見えなくとも私たちの生活はこれによって大きく支えられています。企業活動も例外ではありません。特に、サプライチェーンの上流を見ると多くの企業活動はNCPに支えられています。さらに、生態系サービスの維持に向けての取り組みは企業の持続可能性におけるリスクを低減することにもつながるのです。TNFDとはTNFDとは、企業や金融機関が自然関連の依存・影響・リスク・機会に対するリスク管理と情報開示に取り組むための枠組みです。科学的な根拠に基づいてこうした情報を明らかにし、評価するためのガイダンスも公開されており、グローバルに推進されているものとなります。TNFDの詳細な内容については別記事で紹介しますが、実は日本は他の国々と比べて多くの企業が開示を公表しています。2024年1月に開催された世界経済フォーラムの年次総会(ダボス会議)では、全体で320社の企業がTNFDの開示を公表した中で、日本企業の占める数は80社でした。すでにTNFDレポートという形で取り組みを始めている企業もあり、TCFDと同様、今後ますます取り組みが広がっていくのではないかと予想されます。※TCFDについては、こちらの記事をご参照ください。https://sa-today.jp/articles/fEPA9Ku5気候変動と生物多様性の関係性自然環境に起因するという意味では同じくくりにある社会課題においても、課題解決におけるトレードオフは存在します。ここでは大規模太陽光パネル設置における土地開発を例に挙げたいと思います。一般的に、太陽光パネルで得られた電気は脱炭素に貢献する再生可能エネルギーとして扱われています。しかし、太陽光パネルを大規模に設置するには、それだけの広さの土地が必要です。そこで、土地の確保のために山の斜面の森林を開拓したとします。脱炭素の観点では、その際に伐採された木材のうち、木材として使いきれないものをバイオマスエネルギーやバイオ炭などとして利用するのが良いでしょう。一方、気候変動へのアクションとしては良かったとしても、生物多様性の観点からすると森林生態系の破壊を行っていることとなり、大きな損失となってしまいます。では、木々の伐採をせずに、草原に太陽光パネルを設置するのはどうでしょうか?自然物を直接は排除していないので、一見問題ないように思えるかもしれません。しかし、草原には草原ならではの生態系が構築されています。太陽光パネルの設置によって地面への日光が遮られてしまうと、草原の植物の生育に影響がある可能性があったり、そうした植物を餌とする希少な動物や昆虫の絶滅リスクが高まってしまう可能性があります。このように、気候変動対策と生物多様性保全は密接に関わっており、その両方を考慮した取り組みが今後も求められていきます。双方の評価をどのように行なっていくかについて、未だに断言できない部分もあるため、我々サステナ編集部としても研究機関や評価機関、国際的な合意の場での決定などに注目していく予定です。