こんにちは!サステナ編集部です!先日、ついにサステナビリティ基準委員会からSSBJ基準が公表されましたね。今回は、SSBJ基準のポイント、ISSB基準との比較、日本企業への影響などについて簡潔に解説していきます。SSBJ基準のポイントSSBJ基準は大きく3つの文書から構成されています。1つ目は「サステナビリティ開示基準の適用」と呼ばれるユニバーサル基準で、サステナビリティ情報を開示する際の全般的な原則や手続きを定めています。2つ目はテーマ別基準第1号「一般開示基準」で、サステナビリティに関する全般的な開示項目について具体的な内容を示したものです。3つ目はテーマ別基準第2号「気候関連開示基準」で、気候変動に特化した開示項目や指標をまとめたものです。これら3つを総称してSSBJ基準と呼び、企業は今後この基準に従ってサステナビリティ関連情報を開示していくことが期待されています。SSBJ基準の特徴の一つは、開示内容を整理する枠組みにあります。ユニバーサル基準では、サステナビリティ情報を報告書に記載する際のルールや様式、重要性(マテリアリティ)の判断基準、他の報告基準との関係性など、基本的事項が示されています。一方、一般開示基準や気候関連開示基準といったテーマ別基準では、具体的にどのような情報を開示すべきかが詳細に定められています。特に開示すべき情報は、国際的に認知されている「4つの柱」――ガバナンス、戦略、リスク管理、指標および目標――の枠組みに沿って整理されています。例えば、組織のガバナンス体制や経営陣の関与状況、サステナビリティ課題が事業戦略に与える影響、リスクを管理するプロセス、そして温室効果ガス(GHG)排出量などの具体的なKPI(指標)と目標値、といった項目を網羅しています。「気候関連開示基準」では、気候シナリオ分析に基づく事業のレジリエンス(耐性)の評価結果を開示することや、自社およびバリューチェーン全体のGHG排出量(スコープ1、2、3)の開示が求められています。スコープ3(サプライチェーン等における間接排出)についても段階的にではありますが開示義務が課され、最終的には自社だけでなく取引先や協力会社などサプライチェーン全体にわたる影響が開示されることになります。このように、SSBJ基準は世界標準を踏まえつつ日本独自の事情も考慮した包括的な開示ルールであると言えます。ISSB基準との比較SSBJ基準は策定にあたり、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)が定める国際基準(ISSB基準、具体的にはIFRSサステナビリティ開示基準)の要求事項を可能な限り取り入れる方針が取られました。つまり、基本的な考え方や開示項目はISSB基準とほぼ同じ内容となっています。これは、日本企業の情報開示がグローバルに見ても遜色なく、海外投資家から比較可能なものになるようにするためです。ISSB基準で求められる事項(例えば先述の4つの柱に沿った開示やGHG排出量の報告など)は、SSBJ基準にも原則すべて盛り込まれています。したがって、SSBJ基準に沿って開示を行うことで、自動的に国際水準の開示要求を満たすことが期待できます。もっとも、SSBJ基準は単なる翻訳コピーではなく、日本の実情に合わせた調整も加えられています。一つは基準構成の違いです。ISSBではIFRS S1号(全般的開示要求事項)とIFRS S2号(気候関連開示)という2つの基準書から成りますが、SSBJでは前述のようにユニバーサル基準とテーマ別基準(一般開示・気候関連)の3文書に再編し、それぞれに役割を分けています。この再編によって、開示のための基本ルール部分と開示すべき内容部分が明確に切り分けられ、利用者にとって理解しやすくなっています。また、日本企業になじみのある既存の情報開示制度や用語との親和性も考慮されており、例えば用語の定義や表現が日本の法制度に沿った形に調整されている場合があります。さらに日本固有の取扱いや追加開示項目が一部盛り込まれている点も特徴です。SSBJ基準では、国際基準との整合性を保ちつつも国内独自の事情に対応するための「容認規定」や「追加の開示要求」が設定されています。例えば、企業が開示する指標の算定期間と財務諸表の報告期間が異なる場合、公開草案(ドラフト)では許容されていたものの、確定版のSSBJ基準では財務諸表の報告期間に合わせることが求められるようになりました。このようにデータ期間を財務報告と一致させる規定は、投資家にとって情報を比較しやすくする狙いがありますが、ISSB基準には明示的にはない日本側の配慮と言えます。また、日本の既存の法令で報告が義務付けられている環境情報との整合性を図るため、開示フォーマットや項目について追加の注記が求められるケースもあります。ただし、SSBJ基準で認められた独自の代替的取扱い(例:特定の項目の算出方法について国内ルールを適用する等)を企業が選択しない限り、結果的にその開示内容はISSB基準にも準拠したものとなります。言い換えれば、SSBJ基準に従って開示すれば基本的にはISSB基準も同時に満たしている状態となり、仮に独自取扱いを選択した場合は、その部分についてISSB基準に合致しているか追加の確認が必要になるということです。総じて言えば、ISSB基準との比較においてSSBJ基準は「ほぼ同じだが、細部で日本向けのカスタマイズあり」という状態です。グローバルな投資家目線での比較可能性を損なわないようにしつつ、日本企業が実行可能で既存制度と矛盾しない柔軟性を持たせている点がSSBJ基準の特徴と言えるでしょう。日本企業への影響SSBJ基準の公表により、日本企業のサステナビリティ報告・開示の実務には大きな影響が及ぶと考えられます。まず、これまで自主的なCSRレポートや統合報告書で任意に開示していたサステナビリティ情報が、今後は有価証券報告書(法定開示書類)において厳格な基準の下で開示される方向です。つまり、サステナビリティ情報が財務情報と同様に正式な開示項目となり、経営層の署名や確認を経て公表されるようになります。このことは情報の信頼性向上につながりますが、同時に企業側には開示プロセスの整備や内部統制の強化が求められることを意味します。従来は広報・CSR部門が中心となってまとめていた内容であっても、今後は財務部門や経営企画部門とも連携し、統一したストーリーと正確なデータを作り込む必要があるでしょう。特に気候関連の情報については、多くの企業にとって新たな挑戦となります。TCFD提言に沿った気候リスク開示を既に行っている企業もありますが、SSBJ基準ではさらに詳細な開示や定量情報の充実が求められます。例えば、気候シナリオ分析の実施とその結果開示は、将来の不確実性を扱う難しい取り組みです。また、自社のスコープ1・2のGHG排出量に加え、バリューチェーン全体のスコープ3排出量を算出して報告するには、取引先からのデータ収集や推計が不可欠です。また、SSBJ基準への対応は投資家対応の面でも非常に重要です。近年、機関投資家を中心にESG要素を考慮した投資判断が一般化しています。国際的な基準に沿った開示を行うことで、日本企業は海外投資家からの信頼を得やすくなるでしょう。さらに、ESG評価機関によるスコア評価や投資家との対話(エンゲージメント)の場面でも、標準化された開示情報が重要な役割を果たすと考えられます。逆に、適切な開示がなされていない場合には、資本市場で評価を下げるリスクも考えられます。特に同業他社間で開示内容の充実度が比較されるようになると、サステナビリティ対応の遅れは競争上の不利につながりかねません。そのため、上場企業は自社のサステナビリティ情報を戦略的に整理し、SSBJ基準に照らしてギャップがないか確認していく必要があります。言い換えれば、もはやサステナビリティ開示は「やっておけば評価が上がるプラス要因」という段階を超え、「基礎的な責務」として求められる時代に突入したと言えるでしょう。実施スケジュールと今後の展開SSBJ基準は2025年3月の公表後、今後数年間で段階的に企業への適用が進む見込みです。現時点では、正式な適用時期や適用範囲(どの企業に義務付けるか)は法令上まだ確定していませんが、金融庁の有識者ワーキング・グループで議論されているロードマップが存在します。それによれば、まずSSBJ基準は2024年度(2025年3月期)から任意適用が可能となり、希望する企業はこの基準に沿った開示を先行して始めることができます。そして2026年度(2027年3月期)以降、段階的に強制適用が開始される予定です。具体的には、まず最初に時価総額約3兆円以上という日本でもトップクラスの大企業から義務化がスタートすると見込まれています。おそらく2027年3月期の有価証券報告書(つまり2026年度の情報)で、これらの大型企業はSSBJ基準に基づくサステナビリティ情報の開示が求められるでしょう。その翌年の2028年3月期には対象が時価総額1兆円以上の企業まで範囲が広がる方向で議論が進んでいます。最終的には2030年代前半にはプライム市場に上場する全ての企業が適用対象となることを目指すとされています。このように段階的に適用範囲を広げることで、各社が準備期間を確保しつつ着実に移行できるよう配慮がなされています。なお、適用開始にあたっては企業の負担に配慮し経過措置(トランジション措置)も設けられる予定です。例えば初年度は前年度との比較情報の提示が免除されるほか、気候変動以外のサステナビリティ課題に関する開示やスコープ3排出量の開示について一定の猶予が認められる見込みです。このため、初めて基準を適用する企業はまず気候関連情報に注力し、徐々に開示範囲を拡大していくことが可能となります。今後の展開として、まず注目すべきは関連法令の整備です。金融庁はワーキング・グループの提言を受けて、金融商品取引法の開示ルールなどを改正し、SSBJ基準に準拠した情報開示を法定のルールに組み込んでいくでしょう。具体的な制度設計は2025年から2026年にかけて詰められていく見込みですが、企業にとっては正式な義務化前であっても今のうちから準備を進めておくことが重要です。前述のように大企業から順次適用が始まりますが、サプライチェーン上の中堅・中小企業もデータ提供や協力を求められる場面が増えるため、決して他人事ではありません。自社が直接の対象でなくとも、取引先からの要請に対応する形でサステナビリティ情報の集計・開示が必要となるケースが今後増えるでしょう。まとめSSBJ基準の公表は、日本企業のサステナビリティ情報開示における歴史的な一歩です。国際基準に追随しつつ国内の実情も反映したこの基準は、企業にとって対応は容易ではないものの、持続可能な社会と企業価値向上の両立に向けた重要な枠組みとなります。各企業は「攻めと守り」の視点で早め早めの準備と社内体制の整備を行い、自社の強みや課題を踏まえた戦略的な情報発信に取り組んでいくことが望まれます。この潮流を追い風に、企業はサステナビリティを経営の中心に据えた変革を一層加速させることが求められるでしょう。初めは対応に戸惑う企業もあるかもしれませんが、継続的に取り組むことで将来の企業価値向上にもつながるでしょう。最後までお読みいただきありがとうございました。