世界規模でグリーン・トランスフォーメーション(GX)実現に向けた投資競争が加速しています。日本においても国際公約と産業競争力強化・経済成長を同時に実現していくためには今後10年間で150兆円超のGX官民投資が必要となる見込みです。この巨額の資金を賄うため、政府はトランジション・ファイナンスを活用し政府発行債としては世界初となる20兆円規模の「脱炭素成長型経済構造移行債(GX経済移行債)」を発行していくこととなりました。この記事ではトランジション・ファイナンスとGX経済移行債、そしてそれらが企業に与える影響について解説していきます。トランジション・ファイナンスの概要2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現には温室効果ガス多排出産業を中心に省エネ・燃料転換等を含む脱炭素に向けた移行(トランジション)を支援する多額の資金供給(ファイナンス)が必要となります。しかし、技術面・コスト面の双方において、すべての産業や地域が一足飛びに脱炭素化が可能になるわけではありません。発展途上にある技術でも積極的に開発・導入することで、その時点における最も排出量を削減できる方法を使用していく必要があります。トランジション・ファイナンスとは、脱炭素社会の実現に向けて長期的な戦略に則り、着実なGHG削減の取り組みを行う企業に対し、その取り組みを支援することを目的とした新しいファイナンス手法です。GX経済移行債の既発行額は約1兆6000億円2024年2月14日に財務省はGX経済移行債(10年債)の初入札を行いました。応札額は初回発行額7995億円の3倍近い2兆3212億円、落札利回りは0.740%と当日の同日償還10年債0.741%に比べ、わずかではありますがプレミアムがつく結果となりました。昨今の環境意識の高まりからグリーン債は需要が高く、通常の国債より人気が出るため、同条件の債券よりも利回りが低くなる(価格が高くなる)傾向があり、これはグリーニアム(グリーン+プレミアムの造語)と言われています。入札日名称及び記号表面利率募入決定額令和6年2月14日(水)GX経済移行債(10年)(第1回)0.7%7,995億円令和6年2月27日(火)GX経済移行債(5年)(第1回)0.3%7,998億円日本政府・財務省としては今後10年間で20兆円の発行を予定している最初の一歩であり、なんとしても成功させなければならなかった案件であったことから、プレミアムがついての落札結果にひとまず安心できたことでしょう。GX経済移行債で調達した資金は何に使われる?2024年2月の発行で調達した約1兆6000億円の資金は下記の3分野への投資に使われる予定です。1.市場獲得を目指す革新的技術の研究開発(8,933億円)○グリーンイノベーション基金事業(企業の社会実装投資のコミット等を条件に、水素還元製鉄等の革新的技術を研究開発支援)○革新的GX技術創出事業(GteX)(全固体電池、燃料電池(水素関連技術)、バイオものづくり等のGXに繋がる基礎研究支援)○ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業(エネルギー消費を抜本的に削減させる光電融合等の半導体の革新的技術開発)○高温ガス炉実証炉開発事業・高速炉実証炉開発事業2.成長・削減の両面に資する設備投資(5,119億円)○経済環境変化に応じた重要物資サプライチェーン強靭化支援事業(蓄電池・部素材の設備投資支援等、パワー半導体の製造関連の設備投資支援)○省エネルギー設備への更新を促進するための補助金○地域脱炭素の推進のための交付金(官民が連携した自営線によるマイクログリッド構築支援)3.成長に資する全国規模の需要対策(2,036億円)○クリーンエネルギー自動車導入促進補助金○商用車の電動化促進事業○住宅の断熱性能向上のための先進的設備導入促進事業等GX経済移行債の償還財源はカーボンプライシングGX経済移行債は、脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律(GX推進法)を根拠法として発行される債券です。環境に配慮したプロジェクトや技術への投資の促進を目的としていますが、利付き債券のため当然ながら調達した資金を返済しなければならない償還期日が存在します。GX推進法ではGX経済移行債の償還についても条文化されており、第八条に下記のように記載されています。第八条 脱炭素成長型経済構造移行債及び当該脱炭素成長型経済構造移行債に係る借換国債については、化石燃料賦課金及び特定事業者負担金の収入により、令和三十二年度までの間に償還するものとする。わかりにくいですが、具体的には以下の2つの制度が導入され、償還財源にあてられる見込みです。1.炭素に対する賦課金(化石燃料賦課金)の導入2028年度(令和10年度)から経済産業大臣が化石燃料の輸入事業者等に対して、輸入等する化石燃料に由来するCO2の量に応じて化石燃料賦課金を徴収する制度。2.排出量取引制度2033年度(令和15年度)から経済産業大臣が発電事業者に対して一部有償でCO2の排出枠(量)を割り当て、その量に応じた特定事業者負担金を徴収する制度。具体的な有償の排出枠の割当てや単価は、入札方式(有償オークション)により決定します。このように炭素排出に値付けすることをカーボンプライシングと呼び、先行投資支援と合わせて、GXに先行して取り組む事業者にインセンティブが付与される仕組みです。今回の制度の対象となるのは、電力会社やガス会社、石油元売り会社、商社など化石燃料を輸入する事業者に限られますが、今後GHG排出量開示の義務化が進むにあたってその他の事業者にも負担金が課せられるようになる可能性には留意が必要です。脱炭素経営に向けて環境対策は利益に繋がらないからといって対応を放置していると将来的に炭素税や賦課金で財務状況を悪化させる要因になる可能性があります。日本政府もトランジション・ファイナンスを通じて20兆円規模の投資を行うため、脱炭素経営に向けて舵を切るならば今がチャンスと捉えることもできます。当社は脱炭素に向けた取組に対して豊富なソリューションを有しています。貴社のご状況に合わせて最適なプランをご提案させていただきますので、ご関心がありましたらご連絡ください。次回は企業が行うトランジションファイナンスについてご説明します。出典脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律(https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=505AC0000000032)クライメート・ トランジション・ボンド・ フレームワーク(https://www.meti.go.jp/policy/energyenvironment/globalwarming/transition/climatetransitionbond_framework.pdf)グリーンボンド及びサステナビリティ・リンク・ボンドガイドライン(https://www.env.go.jp/content/000062348.pdf)GX経済移行債発行に関する関係府省連絡会議(第1回)資料(https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/gxjikkoukaigi/ikousai/dai1/siryou1.pdf)初回債*充当予定事業(https://www.mof.go.jp/jgbs/topics/JapanClimateTransitionBonds/UoP_FY2023.pdf)