プロローグ近年、世界的に脱炭素に向けた意識が高まり、各企業は事業活動におけるGHG排出量削減の取り組みに力を入れています。その理由の一つにGHG排出量の1tあたりに税を課す炭素税の影響があります。日本では2023年6月に施行された「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律」(通称GX推進法)の中で、将来的に化石燃料賦課金などを徴収することについて言及がありました。そのことから今後、本格的に炭素税などのカーボンプライシングが導入される見込みがあると考えられます。どの程度企業が自社のGHG排出量に対して課税を負うのか税率等含めて検討中のようですが、もはや企業にとっては売上・事業拡大や企業価値・株価の向上と同様にGHG排出量削減が求められてくることになるでしょう。今回はそんな炭素税に関して、押さえておきたいポイントを簡単に解説していきます。この記事を読み終えた後、「炭素税やカーボンプライシングとは何か」、「今後の動向はどうなるのか」、読者自身が考えられるようになることを目的に読んでいただければ幸いです。カーボンプライシングとは炭素税はカーボンプライシングの一つです。カーボンプライシングとは企業などは排出するGHGに価格を付け、それによって脱炭素に向けた行動変容を促すために導入された政策です。カーボンプライシングは①政府によるカーボンプライシング、②インターナル(企業内)カーボンプライシング、③民間セクターによるクレジット取引の3つに分かれます。また、一般的にカーボンプライシングは下記3つの手法に分類されます。・企業などが燃料や電気を使用して排出したCO2に対して課税する「炭素税」・企業ごとに排出量の上限を決め、それを超過する企業と下回る企業との間でCO2の排出量を取引する「排出量取引制度(ETS=Emission Trading Scheme)」・CO2の削減を「価値」と見なして証書化し、売買取引をおこなう「クレジット取引」炭素税など政府主導のカーボンプライシング以外にも企業内で独自に炭素価格を定め戦略策定における判断軸として活用している企業が近年、増えてきました。事業戦略策定や施策策定の段階で予算や効果にGHG排出量が金額として考慮されつつあると言えます。このようにカーボンプライシングにはGHG排出量の削減による社会への便益を金額表示し、企業や消費者が収入を得る仕組みも含まれています。各国の導入事例日本の炭素税の動向の前に世界各国での導入事例を解説します。炭素税は欧州を中心に導入が進んできました。EU諸国のうち、フィンランドやスウェーデン、フランス、英国などでは炭素税を導入しています。特にスウェーデンでの脱炭素に対する意識は高く税率も約15,600円/t-CO2と他国と比較して高い水準の税率を課しています。このほか、カナダなどでも州レベルで炭素税が導入されています。また、国際エネルギー機関(IEA)では、地球規模でのカーボン・ニュートラルの道筋をシミュレーションしており、その前提として、先進国の炭素価格を140ドル/tCO2(1万8,200円/tCO2) ~250ドル/tCO2(3万2,500円/tCO2)と想定しています。※130ドル/円下記より各国の炭素税率の推移としてはどの国も上昇傾向にあり、各国と比較すると日本の税率は低いことが分かります。今後、脱炭素への意識が高まる中で日本は諸外国と同水準の税率が求められてくる可能性が高いです。ちなみに諸外国における炭素税などによるカーボンプライシングによる政府収入の使用用途は下記の通りです。一般会計への用途が多いですが年金基金や医療保険の負担軽減などに期待ができます。日本の炭素税に関する動向日本では2023年2月に「GX実現に向けた基本方針」(「GX基本方針」)が閣議決定され、2050年のカーボン・ニュートラルに向けた取り組みの一環として、カーボン・プライシングの活用が打ち出されました。「GX基本方針」では炭素税に関して2028年度以降で下記を実現していくことが言及されています。・「炭素に対する賦課金」の導入・化石燃料の輸入事業者等が対象・当初低い負担で導入した上で徐々に引き上げていく・「有償オークション」との二重負担の防止・「排出量取引制度」の取引価格を踏まえて、「賦課金」の水準を決定※出典:経済産業省「GX実現に向けた基本方針」、内閣府「経済財政運営と改革の基本方針2022」上記の通り炭素税が「租税」でなく「賦課金」とされたことで、負担水準変更の機動性が増す可能性があります。税率を国会で議決する必要がある「租税」に対して「賦課金」は負担の水準を国会での議決を経ずに政省令で定めることが可能であり柔軟な税率の変更が行えます。その為、日本国内の企業の脱炭素への取り組み状況や諸外国の炭素税率の動向を加味して税率が定められると予想されます。いずれにせよ、日本国内の企業は賦課金の導入に備えて早いうちから脱炭素に向けた取り組みを行っていく必要があります。また、使用等とに関しては2023年度以降10年間で20兆円発行される「GX経済移行債」の償還財源なお、「GX経済移行債」は、「エネルギー対策特別会計」で経理され、企業等が行うGX投資を支援するための経費に使用されると言及されています。エピローグ今回は炭素税に関してフォーカスを当て解説しました。カーボンプライシングという観点では炭素税以外にも排出権取引など脱炭素に向けた重要な取り組みが存在します。本記事では解説していませんが「GXリーグ」にて始まる排出権取引やカーボンクレジットの活用などについて別記事にてまとめていますので是非、参考にしていただければと思います。最後に昨今の中堅及び中小を含む日本企業ではGHG排出量の削減に向けた取り組みに「なかなか予算が付かない」といったお悩みを企業の担当者の方からよくお伺いします。しかし、炭素税の導入から見ても企業の脱炭素化の重要性は高く、現在取り組みを行うことで将来的な納税額の軽減や企業の株価、時価総額の向上に繋がり、脱炭素化へかける予算・費用以上の効果が得られます。脱炭素化などは非財務な面が多いですが炭素税などカーボンプライシングの取り組みにより、今後、財務的な側面での評価が各企業の中で浸透することを期待します。