本日、11月30日にCOP28(第28回気候変動枠組条約締約国会議)が開催となります。本記事ではCOPとは何かという基本的なことから、COP28の注目すべきポイントを解説していきます。COPとは?「COP(気候変動枠組条約締約国会議)」とは、国連の加盟国が参加する気候変動に関する会議です。COP自体はConference of the Partiesの略で、締約国会議を意味し、気候変動を意味するものではありませんが、一般的にCOPといったらこの気候変動に関する締約国会議を指します。その始まりは、1992年に採択されて94年に発効した「国連気候変動枠組条約(UNFCCC)」にあります。これには気候変動問題を解決すべく、現在198か国・地域が締結・参加しています。COP28COP28には、世界から政治家や各国政府の代表のほか、経営者、研究者、NGOなど、約7万人の参加が見込まれています。 政府間による交渉以外にも、金融やビジネス、環境団体も参加して様々なシンポジウムやイベントが開かれており、温暖化対策や脱炭素の見本市のような側面もあります。開催国UAE今年の開催国は産油国であるUAEで、場所は21年に開催されたドバイ万博の施設で開かれます。会場は東京ドーム93個分の438ヘクタールと広大です。議長を務めるのはスルタン・ジャベル氏。ただ、彼が世界有数の石油生産会社であるアブダビ国営石油の最高経営責任者を務めていることに、温暖化対策に取り組む人々の中には懐疑的な見方をする者も少なくないかもしれません。ジャベル氏はCOP28を、排出削減の取り組みに化石燃料業界を引き入れる機会と捉えている、と述べています。世界の石油・ガス業界は温暖化ガスであるメタンの排出を2030年までにゼロにすると表明する見通しで、もし表明されるとなれば、今回のCOPの成果の一つになるでしょう。COPでの合意に法的な拘束力はありませんが、温暖化阻止への前進が可能であることを示す兆しにはなるはずです。やはり注目は「グローバルストックテイク」COP28で注目すべきは、世界全体の温室効果ガス排出量削減の進捗状況を評価する「グローバル・ストックテイク(GST)」です。2021年11月にスコットランドのグラスゴーで開催されたCOP26で、ついにパリ協定のルールブックが完成しました。「行動」の段階に入った2022年以降、各国は合意されたルールに則って、パリ協定の目標達成に向けてさらに野心的な行動を取ることが求められます。2021年11月から2023年11月にかけて実施された第1回GSTは世界の気候変動対策における重要な焦点の一つです。1.5℃目標達成に向けて強化要請パリ協定は、5年ごとに排出削減目標を更新する決まりがあります。各国はグローバルストックテイクの結果を受けて自国の目標を再検討し、25年中に目標を再提出します。日本は30年度までの13年度比46%削減の目標を修正するのか、判断を迫られることになります。今世紀末の世界の平均気温は、産業革命前と比べ2.2℃~3.5℃上昇すると予測されています。COP28では、グローバルストックテイクの結果を政治的な文書としてまとめる交渉となります。現状、世界目標である1.5℃とはかなりかけ離れているため、各国に目標の強化を求めるメッセージを盛り込まなければなりませんが、一体どこまで踏み込むかといったところが焦点となりそうです。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、1.5℃達成のために35年には19年比60%削減する必要があると分析しています。35年60%減という目標に強制力をもたせるのかは、各国の駆け引きによるところです。日本の対応5月に広島で開かれたG7サミットではやはり「35年60%削減の緊急性が高い」と確認されました。「35年60%減」は、G7議長国の日本が国際公約した数値という解釈もできてしまいます。しかし、国内事情で言えば削減目標の根拠となるエネルギー基本計画は30年度までしか決まっていません。35年度の計画を持たない日本が「35年60%減」に賛同できるのかは不透明なのはたしかです。また、COP28のスルタン・ジャベル議長は、世界全体の再生エネの導入量を30年までに3倍にすることを提唱しています。各国に合意を迫ると思われますが、エネルギー基本計画は30年度までに再生エネを倍増させる計画なので、これを受けた日本の対応は試されるところです。厳しい立場に立たされることが予想される日本ですが、交渉に参加する政府関係者は「排出量を13年度比20%削減した日本は、1.5℃達成に必要な削減ペースに乗っている。高い目標だけを掲げ、それを達成できない国とは違う」と実績を主張しています。その上で、すべての国が25年までに排出量を減少に転じさせることや、新興国、特に排出ゼロ達成時期を60年にしている中国に対しては1.5℃の達成と整合した目標設定を呼びかけることになります。また、日本国内では23年度中に次期エネルギー基本計画策定に向けた議論が始まる見通しです。「35年60%減」や「再生エネ3倍」が事実上の世界目標となると、国内の議論にも影響を与えかねません。日本の企業はさらなる対策の強化が求められることを前提とした経営戦略を練る必要に迫られます。日本はG7議長国としての立場での参加となり、各国の首脳級も参加する中で、岸田文雄首相の世界へ向けた発信に期待がかかります。食に関する分野COP28では12月10日を「食料・農業・水デー」としています。食料の栽培から加工、流通、消費、廃棄に至るまで、食料システムに特化した日が設けられるのは初めてのことです。国連食糧農業機関(FAO)は、この目標達成に向けた世界の食料システムのロードマップを期間中に公表する見込みです。農場から食卓に至る食料システムは、世界の温室効果ガス排出量の約3分の1を占めており、その多くはメタンガスの排出や森林破壊、生物多様性の損失の主な要因となっている畜産に関連しています。FAOの計画には拘束力はないものの、政策や投資の判断材料となるほか、他の分野に比べて取り組みが遅れている食品業界の気候変動対策を後押しすることが見込まれています。肉の消費に関する指針は、各国政府に明確なメッセージを送ることを目的としています。しかしながら富裕国の政治家らは、消費者行動に影響を与えることを目的とした政策、特に日用品の消費削減に関わる政策を敬遠している傾向があります。食料システムにおける気候変動対策の加速化に取り組むClim-Eat(クライムイート)の創設者、ダヌシュ・ディネシュ氏は、「畜産は政治的にデリケートであるが、課題を解決するためにはデリケートな問題にも取り組む必要がある」と指摘し、「畜産の問題に取り組まなければ、気候変動は解決しない。主な問題は過剰消費だ」と述べています。まとめ2023年は史上最も暑い年になる見通しで、温暖化ガスの排出量は日夜増え続けています。環境対策を加速させる必要性はこれまで以上に求められており、排出削減の目標を掲げるだけではもはや温暖化を食い止めることはできません。世界の気温上昇を1.5度に抑え、カーボンニュートラルの実現へと向かう世界の現状が思わしくないことは明らかになっています。グローバルストックテイクによる世界全体の目標に対する進捗評価は、私たちに厳しい現実を突きつけてくることでしょう。COP28では、大胆な行動を打ち出すための新たな目標の設定やその達成のための行動指針、各国の気候変動対策の強化度合い、といったところに注目しながら公にされる情報に関心を寄せていきたいと思います。