昨年より、日本国内におけるカーボンクレジット市場は重要な変革期を迎えています。日本カーボンクレジット取引所や東京証券取引所などの新たなカーボンクレジット取引プラットフォームが開設し始めたことで、市場の透明性とアクセス可能性が向上し始めています。これらの進展は、国内のカーボンクレジット市場に新たな活力をもたらし、気候変動対策の一環としてその重要性を高めています。現在の日本のカーボンクレジット市場は、市場参加者の数が限られており、情報の透明性が低いこと、そして取引の流動性が不足していることが、市場価格の不安定さや予測不可能性を引き起こしています。これらの要因は、市場参加者にとってリスクであり、投資戦略や環境目標の達成に影響を与えています。2023年における日本のカーボンクレジット取引データを深く掘り下げることで、市場の成熟度や流動性、参加者の行動傾向に関して非常に重要な情報を読み解くことができます。また、今後の価格動向を予測する上で、様々な要素がどのように市場価格に影響を及ぼしているかを理解することが不可欠です。現状は流動性や透明性の面でまだ課題が残されていますが、これらの課題に対処し、市場のさらなる成長を促進することが、日本だけでなく全世界の気候変動対策における重要なステップとなります。今後のカーボンクレジット市場の動向を予測するためには、これらのデータを詳細に分析し、国内外の市場動向と関連付けて考察する必要があります。この記事では、2023年におけるすべての売買データを基に、日本のカーボンクレジット市場の現状と将来の展望を探ります。市場の動向を理解し、適切な戦略を立てることで、企業や政策立案者はより効果的に気候変動に対応し、持続可能な未来への道を切り開くことができるでしょう。次のセクションでは、2023年の市場データとその背後にある要因を詳しく分析し、これからの市場の見通しについて考察していきます。カーボンクレジット(チャートと取引量)2023年 J-クレジット(再エネ電力)取引サマリー2023年におけるJクレジット(再エネ電力)の取引データをまとめています。始値高値平均約定価格取引数量2,601円3,900円3,050円55,674円2023年 J-クレジット価格(再エネ電力)チャートこちらのチャートは2023年10月11日から12月28日までのJクレジット(再エネ電力)の価格推移です。2023年の高値は3900円、安値は2600円となりました。2023年11月27日より、Jクレジット市場においてマーケットメイカー制度が開始されたことでJクレジット市場の流動性が提供され、3100円付近で安定して推移していることがわかります。2023年 J-クレジット(再エネ電力)取引量推移2023年のJクレジット(再エネ電力)の取引総量は、52,728t-CO2です。市場開設後は取引が活発になりましたが、その後停滞が続き、11月27日からマーケットメイカー制度が開始されたことにより、取引数量が回復傾向にあります。J-クレジット(省エネ)取引サマリー2023年におけるJクレジット(省エネ)の取引データをまとめています。始値高値平均約定価格取引数量1,5102,8501,67939,4442023年 J-クレジット価格(省エネ)チャートこちらのチャートは2023年10月11日から12月28日までのJクレジット(省エネ)の価格推移です。2023年の高値は2850円、安値は1510円となりました。再エネ電力と同様に2023年11月27日より、Jクレジット市場においてマーケットメイカー制度が開始されたことでJクレジット市場の流動性が提供され、1650円付近で安定して推移していることがわかります。2023年 J-クレジット(省エネ)取引量推移2023年のJクレジット(省エネ)の取引総量は、37,944t-CO2です。市場開設後、省エネについては取引数量が活発に行われていませんでしたが、11月下旬より、取引数量が増えております。11月27日からマーケットメイカー制度が開始されたことにより、取引数量が安定傾向にあります。2023年の日本におけるカーボンクレジット取引状況のまとめカーボンクレジットのボラティリティについて全体MM設置前MM設置後再エネ(電力)178.95円234.16円49.01円省エネ167.18円221.96円8.15円2023年の日次取引データを元に、価格ベースのボラティリティ(標準偏差)を調査した結果、総じてマーケットメイカー(表上、MM)制度を開始後、大幅にボラティリティが下がっていることがわかります。この制度が価格及び流通を安定的に提供することを目的として開始されたことを踏まえると、一定の効果はあったと考えられます。ただし、日次の取引数量を加味すると大量ロットの注文が入った場合など、価格変動の影響を抑えるほどの注文数は賄えていないため、課題はまだまだ残っています。カーボンクレジットの取引高について全体取引高日次最大日次平均取引高再エネ(電力)52,728t7,100t959t省エネ37,944t5,450t702t上表は2023年の取引高のサマリーです。再エネ(電力)と省エネのクレジットの取引高で9万トンの取引高は年間のJクレジットの発行が80万トン〜100万トン程度であることを考慮すると、実需での売買が主流な市場において活発にカーボンクレジットの取引が行われたことがわかります。今後の価格動向脱炭素化への取り組みが加速しているJクレジットは、温室効果ガスの排出削減・吸収量を証明するものです。つまり、Jクレジットの取引量の増加は、温室効果ガスの排出削減・吸収量を増やそうとする動きが加速していることを示しています。日本のCO2排出量は年間約10億トンに対して、過去のすべてのプロジェクトにおけるJクレジット発行数量は約1000万トンと圧倒的に少ないのが現状です。これらを鑑みると本格的にカーボンクレジットを活用したオフセットが始まるとカーボンクレジットが足りない状況になることが考えられます。Jクレジット制度の認知度向上と活用の広がりJクレジット制度は、2013年に創設された制度です。しかし、これまでは、あまり認知されていませんでした。近年、脱炭素化への取り組みが加速する中で、Jクレジット制度の認知度が向上し、活用の幅も広がっております。この制度を活用することで、企業や自治体等は、自社の温室効果ガス排出量を削減し、脱炭素化の取り組みを進めることができます。今後も、Jクレジット制度の認知度が向上し、需要は拡大していくと考えられます。脱炭素化の義務化の流れ2021年、日本政府は2030年度の温室効果ガス排出量削減目標を46%に引き上げています。また、2050年までにカーボンニュートラルを達成するための具体的な目標や対策を盛り込んだ「グリーン成長戦略」を策定しました。これらの目標や対策の実現には、企業や自治体等による脱炭素化への取り組みが不可欠です。そのため、Jクレジット制度を活用した脱炭素化の取り組みが、今後ますます拡大していくと考えられます。具体的にはGXリーグでの排出量取引が2024年10月からスタートする予定であり、そこではJクレジットやJCMの活用ができる方針です。また、政府は2028年に燃料ごとの排出量に応じた賦課金の支払いを求める方針で、2033年度頃を目標に、発電事業者に対しても排出枠の調達の義務付けや排出枠の導入を検討しています。最後にこのように、Jクレジット市場の拡大は、脱炭素化の取り組みを加速させる上で重要な役割を果たすと考えられます。今後も、Jクレジット制度の拡充や、脱炭素化への取り組みの強化、新しい市場参加者などにより、Jクレジットを始めとするカーボンクレジットの需給ギャップは逼迫するとみられています。参考日本カーボンクレジット取引所RE100達成に向けたロードマップ策定支援サステナビリティ委員会の設置についてIFRSのS1/S2に向けた環境情報の開示カーボンクレジットの販売・調達カーボンクレジット活用施策検討