先月30日から、およそ2週間にわたって開催されたCOP28(第28回気候変動枠組条約締約国会議)は当初の予定より会期を1日延長して閉幕となりました。UAEでの開催となり、化石燃料廃止が焦点となった今年のCOP28を振り返ります。化石燃料から脱却で合意約200か国の代表らは、気候変動による最悪の事態を回避するために化石燃料からの脱却を進めることで合意。今開催で議長を務めたUAEのジャベル氏は歴史的な合意だと称賛する一方で、見据える先はその履行にあると強調しました。100か国以上が石油・ガス・石炭の段階的な廃止を成果文書に盛り込むよう強く働きかけをしましたが、これに対しサウジアラビアを中心とする石油輸出国機構(OPEC)は特定の燃料に言及しないよう求めたため、COP28は会期を1日延長されることに。成果文書は「化石燃料からの脱却を図り、2050年までに温室効果ガス排出の実質ゼロを達成する」としたもの。また2030年までに再生可能エネルギー容量を世界全体で3倍にし、石炭の使用を減らす努力を加速、脱炭素化が難しい産業をクリーン化する炭素回収・貯留などの技術を加速させることも盛り込みました。これまでのCOPでは、世界の経済を幾年にもわたって支えてきた石油やガスからの脱却について言及した文書はなく、これを機に世界は次の段階へとむかっていくことを目指します。しかしながら、米欧が当初求めていた「段階的な廃止」は中東産油国の反対により見送られ、化石燃料からの脱却に向けた実効性を維持できる見通しは良いとは言い切れない結果となりました。世界の原子力発電3倍2050年までに世界全体の原子力発電の設備容量を2020年比で3倍にすることを目指す宣言に、日本を含む21か国が賛同しました。今年5月、日本では原発の60年超運転を可能にした「GX脱炭素電源法」が成立しています。宣言への参加で、岸田政権が原発回帰の方針に転じている姿勢は明確となりました。宣言はアメリカとイギリスが主導して、フランスやカナダ、スウェーデン、フィンランド、韓国なども参加し、ポーランド、ガーナ、モロッコなど原子炉を持たないが建設計画を持っている国も加わりました。宣言によると、世界の平均気温を産業革命前から1.5℃の上昇に抑える国際目標の達成に向けて「原子力が重要な役割を果たす」と指摘しました。設備容量とは一般的に、発電設備が一定の時間に発電できる最大量(発電能力)を指します。また、世界銀行などの国際金融機関に原子力を融資対象に含めるように促し、小型炉など新型炉の開発・建設を支援することも盛り込まれました。アメリカは「原発をクリーンエネルギーの重要な一部と位置づけている。世界中の将来のエネルギーミックスにおいて比率を拡大する機会だ」と述べ、小型炉などの開発を推進する姿勢を強調しています。今回の宣言は、世界全体で「3倍」を目指すものではありますが、この宣言をもって、日本国内の原発を増やすという話にはならないでしょう。冷房機器の排出削減UAEなどが冷房機器による温室効果ガスの排出削減に取り組む誓約を発表し、日本やアメリカなど60か国余りが賛同しました。これは「2050年までに冷房関連の温室効果ガスの排出量を、2022年と比べて少なくとも68%削減する」といったものです。誓約では世界には40億人以上が冷房を使えていなかったり、非効率な冷房を使用していたりするとして、安心して冷房を使える環境作りが必要だとしています。しかし、一般的な冷房機器などに使われているフロンは温室効果が二酸化炭素の100倍から1万倍とされることから、温室効果の低い物質を使った冷却システムなどの研究開発を支援するとしています。それには、すでに流通したフロン類の回収やリサイクルについて日本が主導する形で各国と連携して行う取り組みも紹介されています。誓約の中では、世界で熱中症などで亡くなる人は2000年初めに比べて68%増えていると指摘されていて、IEA(国際エネルギー機関)によると、2050年までに世界のエアコンはおよそ30億台増加すると予測されています。日本「化石賞」を受賞岸田首相のスピーチを受けて、日本政府が脱炭素化への貢献であると銘を打ち、火力発電への水素・アンモニア混焼を国内外で推進していることが、環境配慮をしているように装いごまかすこと「グリーンウォッシング」であるとして化石賞を受賞しました。化石賞は、気候変動に取り組む130か国の1800を超える世界最大のNGOのネットーワーク「CANインターナショナル」が、その日の交渉において気候変動対策を後退させる発言を行なった国に与える不名誉な賞です。G7議長国の日本の首相が、「排出削減対策の講じられていない新規の国内石炭火力発電所の建設を終了していきます」と述べたことに対するもので、この発言は、既存の石炭火力発電を維持するだけでなく、排出削減対策を講じている石炭火力は新設する、という受け取り方もできます。日本政府は、火力発電に対して、まだ実証段階にある水素・アンモニア混焼を2030年に20%程度混焼する計画を立てています。そのうえ、「アジアゼロエミッション共同体」の名の下に、アジア諸国においても石炭火力にこれらのアンモニアや水素の混焼がいずれ可能になるという言い訳の元に石炭火力発電を拡大しようとしているのです。その日本政府の意図に、世界のNGOはノーをつきつけたといえます。12月2日には、アメリカが脱石炭世界連盟(PPCA)に加盟することを発表しました。これによって、G7でPPCAに加盟していない国は日本だけになりました。化石賞の受賞は、豊かな再エネ資源と高い技術力をもつ日本に対して、脱炭素化を求める期待の証ともいえるでしょう。東京に水素取引所立ち上げへ 小池百合子知事が表明東京都の小池百合子知事が1日、「東京に水素取引所を立ち上げる取り組みを進める」と表明しました。再生可能エネルギー由来で環境負荷が小さい「グリーン水素」の活用を促す狙いがあります。東京都によると、ドイツ政府の出資で設立された財団「H2グローバル」と連携します。グリーン水素には現在、取引価格などを定める仕組みが整っておらず、活用促進にはこうした整備が必要です。都主導の取引所設置で取引を透明化することにより、投資リスクを低減させたり価格を明確化させたりする効果が期待できるとしています。時期などの詳細は未定ですが、小池知事は会合で「水素の需要を伸ばすため、都が率先して水素を利用し、民間にも働きかける」と述べました。水素の供給を確保するため、国外の各都市との協定締結も進めるといいます。都は2030年までに温室効果ガスの排出量を00年比で50%削減する「カーボンハーフ」を目標としています。小池知事は昨年のCOP27にも出席し、水素エネルギーの活用のため、都内にパイプラインの供給網をつくる構想を表明しています。日本企業が存在感をアピール日本企業は世界中の首脳や企業関係者らが集まる場で、脱炭素につながる次世代型の太陽光パネルや水素技術などをアピールしました。パナソニックは、同社の排出削減目標を紹介した後、技術や製品が社会で使われることで排出を抑制する「削減貢献量」の重要性も強調しました。脱炭素につながる技術力が評価されやすくなるといった意図があります。またパナソニックは、次世代の太陽電池を展示しています。太陽光を電気に変える「ペロブスカイト」と呼ばれる物質を活用した電池で、印刷技術を応用してガラスに塗ることで、電池と一体化させた技術をPRしています。ビルの壁面など、電池の設置が難しかった場所でも発電できるメリットがあり、今後、大型化を進めてさらに発電効率を高めたいとしています。まとめCOP28では再生可能エネルギー容量の3倍化をはじめとして、脱化石燃料に向けた宣言が同意されました。一方で、化石燃料に経済の主軸を据える中東国らとの協議に時間を要したことなどから、改めて世界の足並みをそろえることの難しさを感じさせられました。しかしながら、気候変動対策の推進には一歩も後退している猶予はなく、世界各国が温暖化を食い止めるという同じ目的に向かっていかなければなりません。今会議で宣言を行った各国らが、発言に対して噓偽りのない行動をしていくことに期待していきたいと思います。ちなみに、来年のCOP29は2024年11月11日から22日の日程で、旧ソビエトのアゼルバイジャンで開かれる予定です。